Jan 28, 2001

Dancer in the dark

Title:Dancer in the dark
Director:Lars von Trier
Year:2000
Place:Cine BE
Eval:★★☆

ミュージカルである。ミュージカルであるが、物語は通常の「希望」をテーマにした類型的なミュージカルとは程遠い悲惨さである。息子の手術代を稼ぐためにアメリカに移民して工場で働き、さらには内職までして稼いでいるセルマが不本意にも殺人罪に問われて、死刑になる話だからである。救いの欠片ももない。この映画を観てもらい泣きしない人の多くは不快と感じていても不思議はない。

物語におかしな点もいくつかある。ことの経緯からすると、一人くらいはセルマが金を取ろうとしたことに疑問を感じてもおかしくはない。不倫を理由に借家を出ていくように言われた直後に金を盗る人がいるだろうか。セルマに同情を寄せる女性看守は、その理由は子供がいることだけなのだが、子供がいる他の囚人にもいちいち同情するのだろうか。死刑になった後では後悔するに決まってるんだから弁護士は支払いはともかく引き受けてしまうべきだろう。もっと問題なのはセルマの人物描写が不足していることかもしれない。そのため共感も同情もしにくいかもしれない。

それでも私はこの映画を評価する。一つは演出に関してだ。既存のミュージカル映画は歌劇の延長で作られているため、普段の台詞回しに繰り返しや押韻など音楽的な要素を散りばめておくことで歌への移行をスムーズにするという方法を取る。が、この映画ではかなり違った手法をとっている。通常の場面は、手持ちカメラを用いて構図を常に不安定にしてローファイに撮られており、編集上もリズムを切断するような中抜きを多様しており、かつ自然音を比較的大きめに入れている。要するにドキュメンタリーの撮り方である。歌への移行はこの自然音にトリガーされるのだが、歌の場面では通常の場面とは逆に、設置カメラでミュージックビデオさながらのクオリティで撮られる。したがって、さっきまでロケだとばかり思っていた工場や線路の場面が突然ステージに変化するという驚きを何度も味わうことができる。

もう一つは映画のテーマに関わることだ。この映画のテーマは救い難い現実を描写し、「夢を見るな、現実に絶望せよ」と主張することだろうか。もちろんそうではない。そうではなくて、真のテーマは「人生は短い。それゆえ我々に見えるものはわずかであり、見落としがちな危険が常に目の前にある。だからこそよく刮目して見よ。」という寓意だ。そう考えるとセルマはいわば観客自身の良心のメタファーであり、したがって、先に述べた人物描写の不足もむしろ必然であって実は批判すべき点ではないのだ。この認識に到達しうるかどうかが評価の分かれ目になる。観客に対してかなり挑戦的な映画だということだ。

最後に、かつて輸入版を買い漁るくらい私のお気に入りだったこともあるお姫様。まあ、ただのおばさんなんですが。獄中での「My Favorite Things」には私でも思わずほろりと行きそうになりました。それにしても、カトリーヌ・ドヌーブ、2056ドルと10セントくらいなんとかならんかったのかいっ!!というのが正直なところ。

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